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修行3カ月の寿司職人に未来のワークスタイルを見た! ビジネスパーソンが見習いたいキャリアの歩き方

修行3カ月の寿司職人に未来のワークスタイルを見た! ビジネスパーソンが見習いたいキャリアの歩き方
目次

料理人、ことに寿司職人の働き方が、昨今大きく様変わりしているとか。詳しく調べてみると、業界・職種を越えたワークスタイルのヒントが満載でした。「寿司修行3カ月でミシュランに載った理由」の著者で、BRINGUP代表の宇都裕昭さんに、詳しい話をお聞きしました。


修行をアップデートする

●寿司職人の学校はどんな経緯で立ち上げたのですか?


私はもともと経営コンサルティングの会社で働いていましたが、飲食にかかわる仕事がしたいと考え、独立して飲食専門の人材紹介のサービスを展開しました。

そのなかで、料理人のキャリアに疑問を持ち、2015年に「飲食人大学」を立ち上げました。1年制の調理師学校のプロセスを見直し、未経験から3カ月で、プロの寿司職人の技術が身につくスクールです。

短期の寿司学校は他にもあるなかで、私たちは即戦力にこだわりました。客単価1万円以上の高級店でも、卒業後すぐに活躍できる実践的な技術を習得してもらいます。



●料理人のキャリアに疑問を持った、とはどんなところですか?


寿司職人には「飯炊き3年握り8年」という言葉が、伝わっています。掃除や洗い物からはじめて、裏方としてシャリやネタの仕込みだけを行う下積みを経て、やっと一人前になれる世界でした。今はそこまで厳しくはありませんが、お客様の前で寿司を握るには何年もの修行が必要、という意識は残っています。

業界の外から来て、魚もさばけない私とって、これは「謎ルール」でした。本当に技術の習得に、そんなに時間がかかるものだろうか?と。



●それにしても、10年以上の修行が3カ月に圧縮するなんて衝撃的です。そんなことが本当に可能なのでしょうか


3カ月の学習で、十分な知識と技術を身につけられることは、スクールをやってみてわかりました。ただ、本当に現場で活躍できるか、検証ができません。そこで、大阪で高級寿司店「鮨 千陽」をオープンし、飲食人大学の卒業生だけで運営しました。


おかげさまで、開店から1年足らずで「ミシュランガイド」に掲載され、実業家の堀江貴文さんにも注目していただくなど、大きな話題となりました。

すると、多くの学生が、千陽で働きたいと希望しましたが、全員は受け入れられません。はじめから飲食店を併設して、現場を経験できれば良いと考え、東京で「飲食塾」の立ち上げに参画しました。寿司に加えて、ラーメンと焼鳥のコースも設け、学生だけで運営する店舗を設けています。


その業界ルール、本当に合理的?

●3カ月で技術が習得できることを、結果で証明したわけですね。


はい。長期間に渡る修行は、古い常識、業界の慣習でしかなく、必ずしも合理性はなかったわけです。

問題は、なぜそんなルールがまかり通ってきたのか?

私は業界構造に原因があると考えています。

ひとつのお店に親方はひとりで、本人が転職やリタイアをしたり、店を増やしたりしない限り、ポジションは空きません。だから、少しずつ技術を教えて、ゆっくり内部昇進させないと、組織のなかですぐに上位のポジションが詰まってしまいます。

そもそも、忙しいお店では、じっくり教えている時間がないですし、大事な商品である魚を技術の未熟な人に触らせると、損失になる可能性が高いです。「親方の背中を見て盗め」というやり方になるのも理解はできます。

すべてとは言いませんが、個人にとって意味のないことが、組織の都合で行われている可能性はあります。

ところが、授業料を支払って、3カ月間きっちり学べば、10年の修行を一気に圧縮できるのです。今では3カ月どころか、料理人の修行は1カ月くらいがベストだと考えています。その期間で、知識はもちろん技術の吸収も可能です。

あとは、下積みや修行ではなく、どんどん実地の経験を積んだほうがスキルアップできます。


●とはいえ、長い間かけなければ、習得できないスキルはないのでしょうか。


確かにあります。

先人から受け継がれる「寿司道」のようなものがあって、極めた人がレベル10だとすれば、おそらく最後の1〜2段階の習得には時間がかかります。そのためには、はじめのうちに”背中を見て覚える”昔からの修業が必要なのかもしれない。その可能性までは、否定しません。

全員が同じレベル10のゴールを目指す必要はないでしょう。寿司職人が10人いれば、1人か2人が従来の寿司道を極めて、あとの人は別の道を行けばよいのではないでしょうか。

私たちがやっているのは、レベル6〜7まで、いち早く到達してもらう取り組みです。3カ月でレベル10までは行けませんが、お店で活躍して、相応の収入が得られるスキルは身につけられます。


しなやかにワークスタイルを選択する

●寿司職人のキャリアも多様化しているということでしょうか?


その通りです。

例えば、海外に活躍の場が広がっています。寿司に限らず、和食、焼き鳥、ラーメンなど日本食の人気は非常に高く、料理人のニーズも高まっています。

先日、私がコーディネートした方はケーキ職人で、自分のお店も持っていたのですが、海外で生活拠点を移したいというニーズがありました。寿司、焼き鳥、ラーメンの知識と技術を、を1カ月で習得できるオーダーメイドのプランを受講しています。

この方に限らず、海外で暮らすために日本で寿司を学ぶ、というキャリアプランは、料理人の現実的な選択肢になっています。

 


飲食人大学や飲食塾の卒業生を見ていると、すごく考え方が柔軟だと感じます。

例えば、飲食人大学を卒業して鮨 千陽で活躍していた有望な職人が、あっさり「店を辞めてラーメンを勉強する」と言うのです。授業料を払って、技術を身に着け、実際に活躍しているのになぜ??と驚きましたが、話を聞いてみると理にかなっています。

彼は、海外のある国で暮らしたいという希望を持っていました。その国では、ラーメン職人の需要が高まっており、寿司職人より将来性があるというのです。

 

他にも、寿司とタイ料理を融合させて新しいジャンルをつくったり、寿司職人を経験することで水産資源の可能性を知って、サーモンの養殖業をはじめた人もいます。

10年修行して、やっと一人前になった人に、この発想は難しいですよね。良し悪しではなく、長い時間をかけて身に着けたスキルには、固執するのが自然です。



●これからの時代は、その柔軟さ自体が武器になりそうです。


短期間で覚えた人ほど、切り替えが早く、常識にとらわれないことに驚いています。彼らにとってスキルや経験は、人生や仕事の目的を叶える手段のひとつに過ぎません。スキルチェンジも、掛け合わせも意識して、キャリアを設計する時代になるでしょう。

料理人に限らず、変化の激しい時代ですから、一生一つの職業、スキルで食べていくことは、難しくなっています。というより、これまでのキャリアパスが一辺倒すぎたのかもしれません。

他社や他業界も含め、情報をたくさん浴びて、職場や業界のおかしなことに気づくことが、柔軟で主体的なキャリアのスタートになると思います。

ただ、先人や先輩から学ぶことも、これまで以上に大切です。私が関わったスクールでは、人が教えたくなる謙虚な態度、礼儀作法を、とても重視して教えています。


 まとめの編集会議


ワタシゴト編集部の木下(コラボスタイル社員)と小越(フリーランスライター)が、取材を振り返り、未来のワークスタイルを考えます。

 

木下:常識を覆す働き方が、爽快でおもしろかった😳!


小越:私たちのいるIT業界は、進んでいるようで、むしろ遅れているんじゃないかと思いましたね。寿司職人をやめて、一からラーメンを学び直すほどに、軽やかなキャリアを歩く人は、なかなかいません。


木下:そうかもしれないですね。私たちの業界でも、ワークスタイルの型がなくなり、個人が自由に選択できるようになるのだろうと感じました。


小越:それに、アウトプットが変わると思いましたね。町中華の職人さんが寿司を学んで、新しい町寿司をつくったり、フレンチのシェフが新しい寿司を考案したり。流行りの「リスキリング(学び直し)」とは、こういうことかと。


木下:今でも日本は食文化が豊かだと言われますが、多彩な食がどんどんうまれて、お客も料理人も楽しくなりそうです。


小越:歩いている道、目指す目的地が違うのですから、単純なスキルや経験の優劣を競争する時代ではなくなるのかも。


木下:確かに。飲食に限らず、それぞれの個人や企業のやり方で、新しい価値がつくられていきそうです。ワクワクするようなワークスタイルですが…。


小越:何か気になることが🤔?


木下:ぜんぶ自分で考えて決める生き方には、不安も感じます😔敷かれたレールを走りたくはないけれど、自分で道をつくるほどの自信もなくて…。


小越:なるほど! 「主体的なキャリア」と言われますが、一口で表現できるほど、簡単ではないのでしょう。だからこそ、「わが道を行くスキル」が貴重だし、これからの時代にこそ、持っていれば最強のスキルになる。


木下:そのための「学び続けるスキル」も、ですね。宇都さんのいう「教えてもらえる姿勢」も含めて、激しく納得しました!