仕事時間のリフレッシュを新提案します! 「20分運動休み」のススメ

仕事時間のリフレッシュを新提案します! 「20分運動休み」のススメ
目次

「企画書の締切が迫っているのに、今日は一文字も書けない…」

「昨日の大失敗にどん底まで凹んでいる…」

「このあと、絶対に負けられないプレゼンがある!」

そんなとき、速攻で頭と心を整え、パフォーマンスを上げたり、不安を和らげたりできたら…。

「仕事時間の運動」なら、それができます。

リモートワークをはじめ、働き方の幅が広がった今、仕事中にリフレッシュタイムが取りやすくなった人や企業は多いはず。ならば個人やチームのワークスタイルへ、積極的に運動の力を生かしてみてはどうでしょう?

といっても、ただ身体を動かすだけでは、もったいない。シーンに合わせて、運動の内容やタイミングを選んで、効率よく脳の働きを変えることが大切です。

脳科学者でオフィスワンダリングマインド代表の佐藤洋平先生に、詳しく話を伺って、
「仕事時間のリフレッシュ」を新提案します!


頭と心は身体でコントロールする


「脳の命令に従って身体が動く」小学生でも知っている科学の常識ですよね。

では、同時に「身体が脳を動かしている」ことを知っていますか? そのことを、ふだんどれだけ意識しているでしょうか?

身体を動かしたあとに、気分がスッキリしたり、頭が冴えたりする経験は、どなたもお持ちでしょう。決して気のせいではなく、そのときちゃんと、脳の働きは変わっているんです。当然それは、仕事のパフォーマンスにも関係します。

脳と身体の関係は一方通行ではなく、相互に影響し合っています。だからこそ、心の動きや頭の情報処理能力を、身体でコントロールすることも可能なのです。



#脳と身体のメカニズムを仕事に活かす!

佐藤先生によれば、人の頭や心は、「神経」「免疫」「ホルモン」のバランスに影響されています。ここでは特にホルモンの働きに注目します。

たとえば、楽しい体験をしたときや、目標と達成したときに「ドーパミン」というホルモンが出ると、生きるために必要な「意欲」が増していきます(仕事などで気が張っているときに風邪をひきづらいのはそのためです)。ドーパミンは、情報を整理する脳の機能「ワーキングメモリー」も向上させます。

ホルモンは意思でコントロールすることはできません。代わりに、環境を変えるなどの行動や、運動で筋肉の状態や心拍数を変えることによって、ある程度制御できることがわかっています。

佐藤先生の解説から、ワタシゴトは次の5つのシーンで、ワークスタイルに運動を活用できると考えました。

  1. 仕事の集中力が上がらないとき、なぜか調子が悪いとき
  2. どうしても通したい企画・提案がある
  3. 厳しい上司やお客様との面談、シビアな謝罪
  4. 失敗して落ち込んでいる
  5. いざ勝負のプレゼン、セールスへ!


それぞれの運動活用術を具体的にみていきます。


1.仕事の集中力が上がらないとき、なぜか調子が悪いとき


調子がいいときは、特に意識しなくてもバリバリ仕事ができるもの。
目の前の仕事に集中できるし、電話がかかってきて中断したり、同僚に話しかけられたりしても、すぐに作業に復帰できます。ただ、いったん調子が狂うと、小さなことでも気が散って、タスクに集中できない、といったことが起こります。


この違いって、何なんでしょう?



脳科学的に言うと、情報処理や行動の切り替え、プランニングなど「実行機能」の司令塔的な役割を果たす「前頭前野」の機能に、差があるそうです。

司令塔が活発にはたらき、各所に適切な指示が送られているときは、「調子がよい」状態です。そして、「調子」は運動でつくれます。

具体的には、思い切って席を離れ、息が切れるくらいのジョギング、ウォーキング(有酸素運動)を20分程度行うのが、佐藤先生のおすすめです。
有酸素運動は、ドーパミンの放出を促します。すると自律神経が交感神経優位になり、前頭前野のはたらきが活発になるのです。

モヤモヤしていた頭を、「調子のよい」状態に切り替えることができるなら、20分の運動は悪くない投資ではないでしょうか。

ポイントは、運動と仕事の間を開けないこと。シャワーを浴びたり、ソファで休憩したり、時間が経つとリバウンド的に副交感神経優位になり、リラックスしてしまうことがあります。

佐藤先生も経験的に、「ジョギングして息があがった状態で原稿を書いたほうが筆が進む」と言います。
運動から仕事モードへ、すぐ切り替えることが大事なのですね。

 


2.どうしても通したい提案、企画がある

提案や企画をつくるには、創造的な発想が重要なのは、日々実感されているでしょう。では、その創造性にもふたつの種類があることを、意識していますか?

佐藤先生によれば、創造性には発想をどんどん広げていく「拡散的思考」と、バラバラのアイデアをまとめる「収束的思考」があります。それぞれに、思考力を発揮できる環境や運動が違うのがおもしろいところです。

拡散的思考は、息が切れない程度の散歩などが向いています。街の色々な情報に触れ、適度な刺激を受けながら、リラックスした状態で考えをめぐらせることで、たくさんのアイデアが浮かんできます。

お風呂に入ったり、人と会話しているときに、降ってくるようにアイデアを思いつく人もいますが、これも拡散的思考でしょう。

 

ただ、拡散的なアイデアは、そのままでは企画になりません。まとめて、つなげて、練り直して、といった収束的思考が必要になります。こちらは、散歩や入浴より、しっかり座って紙やパソコンの前で考えるほうが、創造性が高まります。

ただ、創造的な活動の前に有酸素運動を行うと、収束的思考が向上します。
「1.仕事の集中力が上がらないとき、なぜか調子が悪いとき」と同様に、20分程度のジョギングやウォーキングをして、帰ってきたらすぐさまアイデアのまとめに入る、というプロセスがおすすめです。


ちなみに、運動の効果には短期的な急性効果とは別に、慢性効果があります。続けると体質とともに脳の質自体が変わります。運動することで神経線維が太く、丈夫になり、長期的に収束的思考を向上させることがわかっています。


3.厳しい上司やお客様との面談、シビアな謝罪


「あの人に怒られたくない…」「失敗したらどうしよう…」

仕事をしていれば、そんな不安や恐怖に対峙することもあります。そんなときは、「エンドカンナビノイド」の出番です。

エンドカンナビノイドは体内で分泌される、大麻に似た成分です。「脳内麻薬」という異名を聞くとちょっと怖い気もしますが、気分やホルモン、ストレスを調整する重要な物質です。

そして、エンドカンナビノイドは運動によって、分泌が促進されます。そのため、「強いストレスにさらされているとき運動すると、抑うつ症状や不安が和らぐ」(佐藤先生)のです。

緊張の場面に不安が募るときには、これまで同様に20分程度の有酸素運動をすると、心が安定します。シビアな謝罪も、しっかり乗り切る前向きさを取り戻せるでしょう。


4.失敗して落ち込んでいる


エンドカンナビノイドは、トラウマになるような恐怖の記憶を、忘れさせる効果もあります。

大失敗して自分が嫌になったり、上司やお客様に詰められてガツンと落ち込んだら、やはりジョギング、ウォーキングへ。できるだけ早いほうが、悪い記憶を消す効果が高いと言います。部屋を出たら速攻で走り出す、くらいがよいのかもしれません。


さらに裏技!


落ち込みやすい人は、「ホルモンの相乗効果」を狙いましょう。好ましい人間と関わることで放出される愛情ホルモン「オキシトシン」は、「不安感を和らげる効果がある」と佐藤先生。
家族やパートナー、愛犬などと一緒にジョギングすれば、より心が安定します。

不眠も改善するので、くよくよ引きづらず、一晩よく寝てスッキリ
 困難をしなやかに乗り越え回復する力=レジリエンスは、ビジネスパーソンにとって大事な資質ですよね。


ちなみに、レジリエンスは体質によると、佐藤先生は指摘します。失敗を前向きにとらえて、切り替えられる人はステキですが、自分がそうでないからといって気に病む必要はありません。「メンタルが弱い」わけではありませんし、運動とエンドカンナビノイド、そして愛情ホルモンで補強できるのですから。

5.勝負のプレゼン、セールスへ!



最後に、社内社外と競争の世界で戦うセールスパーソンに、ぜひ実践していただきたいモチベーションアップのテクニック。

セールスの場で、自信のないそぶりを見せると、相手に疑念・不安を持たせてしまいます。現実はどうあれ、自信たっぷりで挑むことが、成功への大事な要件と言えるでしょう。

 

そこで、活用したいのが男性ホルモン(女性の体内にもある)の「テストステロン」です。テストステロンは思考力や認知機能を高めると同時に、不安感を減らして、リスクを過小評価させる働きがあります。

テストステロンが増えると、脳内がバグって、現実より「勝てる見込み」が高いと錯覚するのです。多少不利な商談でも、口調や態度はアグレッシブになり、自信のあるふるまいができるようになります。

テストステロンは、ゆるやかな有酸素運動ではなく、高い負荷をかける無酸素運動でより多く放出されます。もっとも合理的なのが「筋トレ」です。

当社にも、オフィスに筋トレマシンの設置を熱烈に希望するセールスパーソンがいますが、営業のパフォーマンスを上げたい企業は、大いに検討の価値がありそうです。

(ただし、筋トレのやりすぎは免疫機能を下げる可能性があるので、負荷はほどほどに…。)




新提案!仕事時間の運動休みを次世代のワークスタイルに!

さて、新しいワークスタイルの実現に向けて、具体的な提案をするのがワタシゴトのコンセプト。佐藤先生が教えてくれた脳と運動の関係をまとめて、次の8カ条を提案します!

 

仕事時間に「20分運動休み」を入れよう!

 一、ジョギングはもはや万能の仕事術である

 一、集中したい時、風呂敷をたたむ時、不安なときはぜひ実践を

 一、戻ったら休憩を挟まず、汗ばむ身体で仕事に戻る

 一、アイデアを広げたいときは散歩に出て軽く頭と身体を動かす

 一、失敗したときも速攻のジョギングで翌日に引きづらない

 一、家族や愛犬と運動するとホルモンの相乗効果で不安が和らぐ

 一、セールスパーソンは筋トレで「勝てる見込み」をバグらせる

 一、運動は長期的に身体と脳を変える。継続は力なり


 

運動以外にも、環境の変化やエンタメ、コミュニケーションなどで、脳の働きは変えられます。
しかし、自分の意思で、最も簡単にホルモンを促し、頭と心を好ましい状態に導ける手段といえば、やはり運動でしょう。


比較的自由に時間を取れる職場の方は、ぜひ8カ条をPCやスマホに保存して、今日から実践してみてください。企業の経営者、管理部門の皆さんには、「20分運動休み」の正式導入をご提案します!


 

●監修

佐藤 洋平先生

 富山大学大学院 生命融合科学教育部 認知情動脳科学専攻 後期博士課程 修士(健康科学) 筑波大学にて国際政治学を学んだのち、飲食業勤務を経て、理学療法士として臨床・教育業務に携わる。人間と脳への興味が高じ、畿央大学大学院へ進学、脳波を用いた研究に携わる。現在富山大学大学院博士課程でコミュニケーションに関わる脳活動の研究を行う。 2012年より脳科学に関するリサーチ・コンサルティング業務を行うオフィスワンダリングマインド代表として活動。研究者から一部上場企業を対象に学術支援業務を行う。 研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。 日本最大級の脳科学ブログ「人間とはなにか? 脳科学 心理学 たまに哲学」では、脳科学に関する情報を広く提供している。