辞めた会社とつながり続ける令和的「アルムナイ」のワークスタイル

辞めた会社とつながり続ける令和的「アルムナイ」のワークスタイル
目次

あなたは会社を辞めた人たちと、よい関係を築けていますか? 転職経験のある方なら、前職の人たちと、情報交換したり仕事上の関係を持っているでしょうか?


近年、「退職者」をあらわす「アルムナイ」が注目されています。アルムナイを貴重な資源として積極的に関わる企業とともに、アルムナイ側も卒業した会社と上手に付き合う人が増えています。日本で早くからアルムナイに着目し、企業と人材にサービスを提供してきたハッカズークの實重遊さん、濱田麻里さんに取材して、現代のワークスタイルを考えてみました。


現役社員と退職者がつながる理由


ハッカズークさんのサービスを教えてください。

アルムナイとのコミュニケーションに特化した企業向けのクラウドサービス「Official-Alumni.com」を、2017年から提供しています。企業と現役社員、アルムナイがつながることのできるクローズドのSNSであることが特徴です。

 


はじめのころは、「ユニークなサービス」くらいの位置付けに捉えられてしまうことも多かったですが、人事の領域でアルムナイが認知されたこともあり、導入いただく企業はどんどん増えています。


みんなの意識が変わっていると?

今は転職が当たり前の時代ですし、どの企業も人材確保には課題を持っています。人事の領域では、アルムナイとの繋がりを活用する動きは活発で、特に大企業では検討していない企業がないのではないかと思われるほど、実は広がっています。

一方で、かつて「退職は終身雇用の契約違反だ」とみられるような時代がありました。上述のとおり環境は変わっていますし、そもそも本来「終身雇用であること」は契約ではありませんが、心理的に「終身雇用が当たり前だ」という意識があることから、「退職者=裏切り者」という意識が、ビジネスパーソンに残っていることは確かです。








そうですよね…。個人や会社の雰囲気によって、考え方には違いがありそうです。


会社としてアルムナイとの付き合い方はそれぞれですが、実際に会ってみると、現役社員、アルムナイともに「裏切り者」という意識が変わるようです。

アルムナイと現役社員がリアルで交流するイベントも開催しているのですが、「話ができて本当によかった」という現役社員の方がとても多いですね。アルムナイの退職時に、「なんで辞めてしまったのか」「自分たちに悪いところがあったのか」といったわだかまりがあったとしても、時間を経て、そのとき話せなかったことも話すことで、お互いわかりあえるのではないかと思います。



アルムナイも、仮に不満があって辞めたとしても、何年か経つと考え方が変わります。外に出てみると、前職の良いところを再認識するんですね。現役社員とアルムナイは決して敵ではなく、立場は違っても大切な味方なのだと感じていただけたら嬉しいです。

アルムナイと企業がつながって、どんなことが起こるのでしょうか?


再入社したり、転職先の会社と取引や協業がはじまったり、副業や業務委託で仕事を請けたり、などさまざまです。アルムナイ同士でも、同じように仕事上の付き合いがはじまることもあるようです。


つながりの例

Oさん…2001年に大手食品会社に新卒入社、仕事の忙しさと家庭の両立を図るため、2015年に米菓メーカーに転職したが、7年経った2023年に再入社。圧倒的なスピード感に大変さに魅力を感じている。

Nさん…グローバルな事業展開に魅力を感じ、2014〜2022年まで大手商社で勤務し、その後、祖父と曽祖父が創業した家業に入る。前職の商社と協業したり、かつての上司に企業を紹介してもらうなど、つながりを保つ。

Kさん…2016〜22年にマーケティング企業に在籍。転職後もアルムナイネットワークに参加して、アルムナイ同士で情報交換したり、商談につなげるなど、交流を続けている。「(退職後も)その会社の価値を広めていくことが恩返しになる」とコメント。


おもしろいのは、アルムナイが前職の会社の採用イベントに登壇する、というパターンがありますね。


どういうことですか🤔??

例えば、起業して活躍しているアルムナイが、新卒採用のイベントで「ここでファーストキャリアを過ごしたことがよかった」と言うことで、学生たちにも、キャリアを過ごす価値のある会社としてアピールにつながります。人事部や現役社員では、できないことですね。アルムナイが素晴らしいキャリアを歩んでいることが、その企業のブランディングになるのです。

今の学生は、安定を重視していると言われています。しかし、かつてのように会社に守られて、一生を一社のなかで過ごすという安定でなく、きちんと経験やスキルを身に着け、転職しながらキャリアを築いていけるような安定を求めているのでしょう。

入社してがんばって、その次のキャリアがどうなっていくか? 優秀な人ほど考えるでしょうから、アルムナイはよいサンプルになりますね…!


 

人間関係はビジネスパーソンの貴重な資本

企業にとってアルムナイは、貴重な人材であり、取引先であり、自社の応援者であるわけですね。

でも、アルムナイは将来戻ってこようとか、転職先で取引しようとは、あまり考えませんよね。企業とつながるメリットが、理解されにくいところがありませんか?

はい、中には「退職後もSNSでつながろう」と会社から言われて、警戒する人もいます。ただ、総じて理解は進んでおり、少なくともおよそ半数近くの人が、SNSに登録されます。戻ってきたアルムナイが自社で活躍したり、アルムナイを通じてビジネスパートナーを得るなど、現役中に自分ゴトの体験があれば、意識が変わっていくのだと思います。

先日、私自身も新卒で入社した先輩と仕事をしたのですが、「とにかく話が速い!」と実感しました。共有していた価値観があるので、時間が経っていても、ある程度お互いの考えていることがわかるんです。



特に若いうちに働いた会社のカルチャーや価値観は、退職しても後々まで染み付いている気がします。アルムナイ同士の目には見えないつながりが可視化されるというのは、大きな価値ですよね。

はい。ビジネスパーソンにとって、過去のキャリアで得られた人間関係は大事な資本です。

私たちは、目標に向かって進む一直線なキャリアを考えがちですが、実際は、挫折や気持ち、人間関係などの環境、ライフステージの変化などによって、寄り道を繰り返す曲線的なイメージが近いのではないでしょうか。

そのなかで、過去の職場とのかかわりが役に立つときが、必ずきます。困ったとき助けてもらったり、飛躍したいとき相談できたりする相手は、一人でも多いほうがよいでしょう。人間関係を資本にできるかできないかで、差はついていくはずです。

 


目の前の具体的な活用法がイメージできなくても、つながっておくべきだということですか?

そう思います。はじめは、「自分が損をしないために」退職した企業とつながる、といった意識でよいでしょう。せっかく持っている貴重な資本を、自分から捨てるメリットはないのですから。


まとめの編集会議

ワタシゴト編集部の木下(コラボスタイル社員)と小越(フリーランスライター)が、取材を振り返り、未来のワークスタイルを考えます。

小越:アルムナイのネットワーク、使ってみたいと思いますか?

木下:はい。会社員として、「背筋が伸びる」サービスだと思いました…!!!

小越:背筋が伸びる🤨?

木下:今は転職が当たり前ですから、若い世代のビジネスパーソンは、退職を裏切りだと思ったり、アルムナイにわだかまりを持つこともないと思います。

ただ、久々に会ったり、話たりする機会があると、勝手にハードルを上げるというか、期待はするかもしれません。外のフィールドで色々経験している分、レベルアップしているはずだと。再入社や新しい会社での取引などで、仕事をする機会があればなおさらです。

自分がアルムナイだったらと、立場を変えて考えてみると…😣

小越:確かに。新天地で活躍できていないと、前の仲間に顔向けできないような気持ちはありますね! 格好をつける必要はないのかもしれませんが、やっぱり成長した自分を見せたい。

木下:そうなんです!「ゆるく」でも前職の現役社員や、アルムナイ同士でつながっていることで、緊張感がうまれて、それが自分の背筋を伸ばし、背中を押してくれるような気がするんです😌

小越:腹をくくって、がんばるためのアルムナイネットワーク! アルムナイと現役社員、どちらにも、気合を注入してくれそうです!

小越建典
記事を書いた人
小越建典

課題解決クリエイター 広告代理店の営業マンを経て、2007年にライターに転身。書籍や雑誌、Webメディアの企画・執筆を担当。2014年ごろからはオウンドメディアの企画・運用に携わり、販売促進や広報・PR、ブランディングなど、コンテンツで企業の課題を解決する提案を得意とする。 メディア執筆、書籍の実績も多数。近著に「4コマで日本史(山川出版社)」。自社にてニュースレター「ソルバ!イノベDB」を運営。