クラウドサービスの法人営業からカメラマン、おもちゃドクターまで。「オフィス地球」のワークスタイルとは?
企業向けのクラウドサービスを提供するサイボウズのエンタープライズ営業部につとめながら、他にも多彩な顔を持つ「コジロウ」こと小島雄一朗さん。「オフィス地球」を合言葉に、複数の仕事をかけもち、常識に縛られないワークスタイルを実践しています。その半生や考え方を詳しくお聞きしました。
仕事と仕事、プライベートの切り替えは?
-コジロウさんの現在のお仕事を教えてください
サイボウズの名古屋オフィスで、企業向けのクラウドサービス「kintone」「サイボウズOffice」「Garoon」「メールワイズ」等のセールスを担当しています。MOVEDにも所属し、新潟県糸魚川市の事業支援として映像の撮影や配信を担当しています。
他にも、個人事業で地元企業やイベントの撮影やWebデザインを請け負ったり、地元の弥富市のローカルメディアの編集長をしたり、ボランティアで壊れたおもちゃを修理したり(おもちゃドクター)、災害ボランティアもしたりと、さまざまな活動をしています。
-とても多彩ですね。1日のワークスタイルをお聞かせいただけますか?
基本的には、サイボウズにてフルタイムで働いています。映像編集仕事などはサイボウズ仕事の時間外で対応したり、イベント撮影などの他の仕事で日中の長時間の用事があるときは、半日〜1日有給を取るなどして対応します。オンラインの打ち合わせなど、不定期で短時間な場合は、サイボウズの仕事を1時間抜けて、その分を残業することもあります。サイボウズの勤務時間は1日ではなく、月単位で決まっており、柔軟に調整できるのです。
このように、労務としては時間の区切りを明確にしていますが、気持ちや頭の中を完全に切り替えるのは難しいですね。サイボウズでの勤務中に映像のことを考えたり、映像で出会った人にサイボウズを紹介したり。土日に子どもと遊んでいる合間に、仲間と仕事のやりとりをすることもありますね。生き方、考え方としてはむしろ、仕事と仕事、あるいは仕事とプライベートの境は、ほとんど設けていません。
働く場所は、一緒に働く相手の都合に問題なければ、その日の目的や気分で自由に選択しています。社員同士、クローズドの場で同僚と話したいときは、サイボウズのオフィスにいます。偶然の出会いを期待するときはコラボベースNAGOYA(コラボスタイルが運営する会員制のコミュニティスペース) 、思い切り作業に集中したいときや家族と過ごしたい日は在宅、ワーケーション的に気分を替えたいときは糸魚川にあるMOVEDのオフィスへ、と使い分けています。
上昇志向から個性の掛け合わせへ
-そのような働き方に至るまでの経緯を教えてください
私が社会に出た2000年代はじめは、ITバブルを経て、IT産業が大きく成長した時代。新興の経営者たちが「ヒルズ族」などと呼ばれて、脚光を集めていたときでした。20歳の私はそんな姿に憧れて、実家の三重から東京に向かったのです。
大手SIerに就職して、出世競争を戦いながら、書籍やセミナーでたくさん勉強して、起業に向けて将来の計画を練っていたものです。「30年計画を立てて、やりたい事業が100個できたら起業しよう!」と思っていたのですが…できたのはせいぜい10個くらい。計画通り進んで面白かったことがほとんどない。
0から1をつくる起業家の仕事は自分に向いていないのではないか? と、思い始めたとき出会ったのが、「月3万円ビジネス」という本でした。いろんな仕事を細切れでやる価値観は、私の中でこのときうまれたんです。
それまでの私は、「上下」の視点しかありませんでした。出世したり起業してお金を稼いだり、ヒエラルキーを上ることばかり考えていたのです。そうではなく、人や仕事との色々なつながりのなかで、自分の個性を多方面に増やしていくほうが向いているのではないかと。
同じ頃、友人と映像制作の仕事を趣味としてはじめました。転職するのではなく、システム開発とカメラマン、と両方やる働き方がとても楽しいと感じました。以来10年以上、複数の仕事を掛け持ちしています。
自分の生き方が誰かを少しだけ変えていく
-選んだ仕事に共通するやりがいや喜びは、どこにあるのでしょうか?
サイボウズが目指している働き方のテーマでもあるのですが、私は「がまんしない」働き方を大切にしています。やりたい仕事をやり、嫌いなことは我慢せずに相手やチームに伝え、住みたいところに住むというライフスタイルです。
簡単には実現できませんが、ずっと目指しています。
価値観が多様化したとはいえ、「サラリーマンとはこういうもの」「父親とはこうあるべき」といった常識を持っている人は多いでしょう。そうではない考え方もあると感じてもらえるよう、SNSやリアルのコミュニティでさまざまな人とつながり、発信してきました。
一人で自分の人生を楽しむだけでなく、なぜ共有する必要があるのか? 最近、自分でも理解できたのですが、私を見て「意外にがまんせずに働けそうだ」「この部分はやってみたい」、反対に「自分とは合わないからこうする」と思ってもらえるのが、とてもうれしいんです。
自分の生き方が正しいとか、100%そのまま真似してほしいと、思っているわけではありません。私という参考モデルを知っていただくことで、誰かの人生が変わることがあるのか? そんな社会実験を楽しんでいる感覚です。
-最後にワタシゴトの読者にアドバイスをお願いします。
「考える前に動いてみよう」ですね。
知らない領域にチャレンジするときは、「情報を集めてから」「勉強して一人前になってから」と考えてしまいがちです。私も20代はそのように考え、失敗しないためにたくさん勉強していました。しかし、せっかく準備をしてもやってみたら計画通りにはまったくいかず、早くやっておけばよかったな、なんてムダになってしまった知識もたくさんありました。
その反動で、30代は計画を立てず、機動力に全力を注ぎました。「会社員だから」「専門外だから」といった言い訳をせず、目の前に来たチャンスには飛びついてみたんです。すると、自分だけでもんもんと勉強して計画しているよりも遥かに多くの機会と人脈に恵まれ、大事なことをより多く早く知ることができますし、そのときは失敗だと思った経験があとから生きてくるなど、自分の幅が広がりました。
未熟だと思っていても、飛び込んでやってみると、意外にできるものですよ。私は、映像の仕事は未経験でしたが、ある程度分かってきたら「プロカメラマン」と言っていましたし、ブログを3本書いたら「Webメディアの編集長」と名乗っています(笑)。
まとめの編集会議
編集部の木下とライターの小越が取材を振り返って深堀りします。
木下:複業やパラレルワークって、収入やスキルの「穴埋め」というイメージがありました。もう少しお金がほしいから、キャリアのために経験を積みたいから、と。でも、コジロウさんは、自分のやりたいことに、とても素直ですよね😌
小越:好きなことをやるために、起業や独立などの選択肢もありますが、それにはリスクもあるし、お金や生活のために、むしろ制約を受ける場合もあります。会社に所属しながら、会社の枠を超えるコジロウさんの生き方は、とてもバランスがとれていると感じました。「サラリーマンがもっと自由に生きるには?」を考える良いモデルかも。
木下:一方で、「嫌なことをしない」「がまんしない」とおっしゃっているコジローさん自身が、30代には仕事を選ばず何でもやった、というのは印象的でした。経験がないこと、未熟なことに挑戦するのって、ストレスじゃないですか🤔?
小越:自分にとって、何が「嫌」で何が「がまん」なのか、本当のことはやってみないとわからないですよね。たぶん、今のコジロウさんが避けているのは、自分でなくてもできる仕事とか、人のためにならない仕事なのだと思います。
木下:うーむ。コジロウさんはとても楽しく生きているように見えていましたが、ラクなこと、簡単なことだけやっているわけではないですよね。「がまんしない」生き方を実践するには、前向きなエネルギーが必要ですね。
小越:「動け!」とおっしゃっていましたね。知らないことに挑戦するときには、不安や怖れがつきものですが、それも動いているうちにクセになってきそう😏!